はじめに

このコーナーでは日頃の診療から一般の人にも知っていただきたいことを記し ていこうと思います。少しずつ追加していきます。御参考になればさいわいです。


不妊検査で”異常がない”と言われたら?(不妊検査の限界)

長期不妊のご夫婦の中には以前に子供ができないので、あるいは早く子供がほしいので産婦人科で検査を 受けたところ”異常がない”といわれたのでそのうち妊娠するだろうと考え、 そのままなんにもせずに様子をみていたが一向に妊娠しないのはどうしてかと訪ねてくることがあります。

これには問題点が大きく2つあります。
1.異常がないというのはそのときに”その施設で出来うる検査では異常がない”という意味のことが あります。その施設がどこまで検査可能かという情報が患者さんにわかればよいのですが・・・。 できない不妊検査はなにかを尋ねる勇気が必要です。

2.かりにあらゆる不妊検査が可能でも原因がわかるのは不妊症の2/3といわれています。 残りの1/3は現在でも検査では異常がないといわれます。 ”本当は異常がわからない”のです。 検査で正常なら不妊症ではないと勘違いをしないことが大切です。

原因不明不妊の治療法


不妊原因が不明のかたには治療法がないというわけではありません。
一般的には排卵誘発剤の投与および配偶者間人工授精(AIH)を行なうことで 妊娠率を高めることができます。それでも妊娠に至らないときには体外受精や 配偶子卵管内移植がおこなわれます。


子宮内膜症について

 その発生原因については移植説、上皮化生説などがありますが いまだはっきりしていません。本来子宮腔内にあるべき 子宮内膜組織が卵巣や骨盤腹膜に存在し卵巣ホルモンの影響をうけて 増殖し癒着や出血をおこす良性の疾患です。 症状としては月経痛、下腹痛、腰痛、性交痛があげられ 年齢とともに徐々に強くなるのが特徴です。 また不妊の人にも多くみられます。 治療法として薬物療法(偽閉経療法)および手術療法 (アルコール固定、嚢胞摘出、子宮全摘)などが 患者さんに応じて選ばれます。ただし完全に病巣をなくす ことは非常に困難です。 良性疾患ですし閉経とともに症状は消失しますので 治療により症状が軽くなり日常生活に差し支えなければよいと 考えたほうがよいでしょう。
ただし不妊に関しては 閉経までは待てませんので腹腔鏡などで早く診断治療し、 早期の対処が必要です。内膜症のひとが妊娠しても 妊娠分娩経過に悪影響をおよぼすことはまずありません。




基礎体温と排卵日

基礎体温表からの質問の多くに次の二つがあげられます
1.排卵日が正確にわからないので教えてほしい、
2.体温の陥落日がないので排卵していないのではないか

答え:
1.基礎体温だけでは排卵日を正確に知ることは出来ません。 もう10数年も以前になりますが私が超音波検査で調べたところ 最も多いのは低温相の最終日(陥落日も含む)、 次いでその翌日、翌々日(高温相になる途中)となります。 正確にどうしても知りたければ超音波検査を受ける必要があります。 ですから排卵日を基礎体温だけで判定し男女産み分けをするとかいうのは眉唾ものでしょう。また尿のなかのあるホルモン(黄体化ホルモン)が急激に増えたら 排卵が起こることが分かっています。この検査薬は薬局でも 市販されていますので利用するのも便利です。

2.陥落日がなくとも排卵している人はいくらでもいます。 明らかに二相性になっていれば排卵していると考えてください。

不妊治療の病院選び

不妊治療がうまくいくかどうかの最大のカギはどこの病院に通うか にかかっているといっても過言ではありません。病院選びを誤るといたずらに 時間を浪費して高齢になってしまい妊娠率を悪くしてしまいます。 一般の患者さんからみると同じ産婦人科でもそれぞれ特徴があり力をいれている分野(自信をもっているところ)は異なります。 特に不妊治療は最近もっとも進んだ分野のひとつですので、どこまでの検査・治療 が可能であるかは施設によって雲泥の差があると考えたほうがよいでしょう。
初めて訪ねる病院はすべての検査・治療ができる必要はないと思いますが 少なくとも次のような条件がととのっている所がよいと思います。

1.子宮卵管造影をしてもらえること
基本の検査です。卵管通気法や通水法により卵管の通過性をみる検査が ありますが多くの欠点があります。通気法や通水法だけで子宮・卵管は 異常なしと判断していると大きな落とし穴があります。レントゲン検査 という煩わしさは医師のほうにもありますが手を抜かないほうがよいと 思います。レントゲン設備がないのでと検査紹介をしてくれるところは もちろんOK、逆に設備があるのにいつまでもしない施設はあまり不妊治療に力 をいれていないと考えてよいでしょう。

2.精液検査を院内でしていること
一般的な精液検査は簡単に出来る検査です。精液の状態は時間とともに 変化します。外部の検査センターなどに依頼していると検査実施までに時間が たってしまうので信頼出来る結果でなくなることがあります。

3.時間外診療に対応できること
日曜・祝日の診療が出来ない施設では折角の妊娠のタイミングを みすみす逃してしまうことにもなりかねません。また仕事を 持たれているかたは時間外の注射などで便宜をはかってもらえる 施設でないと結局は途中で挫折してしまいます。

4.施設の検査・治療の限界を教えてもらえること
これはなかなか言いにくいことと思いますが先生に直接聞いてみるのが 一番です。快く教えてくれる施設は必要なときには適切な医療機関を紹介 してくれるでしょう。 私の診療所も限界があり、検査や治療が出来ない部分は他施設にお願いしております。

5.医療関係者の評判のよいところ
産婦人科関係者(医師・看護婦)からの情報はもちろん最も信頼できます。 他科の関係者はなかなかわかりづらいものです。私も産婦人科以外の情報は あまり持ち合わせていません。 またマスコミやインターネットの掲示板等の情報は興味本位や作為的にゆがめられて報道されることがありますので注意が必要です。

6.治療成績が公表されていること
治療成績が公表されているところは信頼できると思います。できれば実数をあげられている施設がわかりやすいですね。妊娠率何%だけで実数が不明では判断材料としにくいと思います。

7.体外受精・胚移植登録施設
不妊治療に力を入れている病院と考えてよいと思います。

7.どんな患者にもクロミッド
クロミッド(経口排卵誘発剤)の服用も有効な治療法の一つですが欠点もあります。検査等を経ずにすぐにクロミッドの服用を勧めるところは私はお勧めしません。

8.女性(男性)医師でないと・・・・
不妊治療に限りませんが性別だけで医師を選べば、よい医師に出会える可能性を自分から1/2に減らしたことになります。性別だけで選ばれたと感じると男性医師も女性医師も治療のモチベーションは下がります。




AID(非配偶者間人工授精)しかないといわれた御夫婦へ

ご主人の精液検査で精子がいない、あるいは非常に悪くて AIDでしか子供が望めないといわれ妊娠をあきらめている人はいませんか。 不妊治療の進歩は目覚ましく数年前には妊娠は無理といわれた 高度の乏精子症、無精子症のひとでも精巣で少しでも精子形成がある人は 顕微授精によれば妊娠が可能です。当院でもAIDしかないと言われていた ご夫婦にご主人の精巣精子を用いた顕微授精を行ない妊娠に至っております。 AIDしかないといわれた人も一度は顕微授精を実施している施設 でご相談を受けることをお勧めします。




体外受精を何回受ければ子供が授かるの?

下のグラフで示したように当院では子供を授かった人の94%(64人中60人)は4回以内の胚移植でした。 初回の胚移植で妊娠したのが56%と圧倒的に多くなっています。5回以上での妊娠例は少なく これは5回以上も頑張れない(肉体的にも精神的にも経済的にも)ひとも多く含まれておりますので 4回以内に子供が出来るよう最大の努力をはらっています。





母体年齢と体外受精妊娠率(当院の成績)
左図の採卵症例の年齢分布をみると34-35才をピ−クに32才から41才までが多い一方で 右図に示す妊娠率は36歳をこえるとETあたり30%を切り低下の一途をたどっています。 妊娠率が下がり始めるころに採卵症例のピ−クが来ることが体外受精・胚移植の成績向上へ の大きな壁になっていることがわかります。35歳までに 体外受精を含めた積極的治療を行う必要性がうかがわれます。


妊娠の早期診断について

妊娠の早期診断は尿中ホルモン測定(薬局でも市販されているいわゆる妊娠診断薬と同じ方法です)と超音波検査で行いますが診断の出来る時期とその内容が異なり ますので注意が必要です。尿での妊娠反応は早い時期に診断でき非常に便利で すが正常妊娠かどうかの判定が出来ません。 ご自分で妊娠反応をされて陽性のときには速やかに産婦人科を受診されるよう お勧めいたします。子宮外妊娠などの診断が遅れると生命に危険を及ぼすこと になりかねませんので。 妊娠の診断が出来る時期は妊娠がスタートしてからどれぐらい経過しているか: すなわち排卵日がいつであったか(月経の日ではありません!)によって次の ようにわかれます。

排卵日より2週間まで 一般的方法では不可能
2週間以降 尿での妊娠反応が陽性になる。
(子宮外妊娠の診断はまだ不可能)
3週間以降 超音波検査で妊娠の診断が可能になる
(子宮外妊娠の可能性を推定できることがある)





お産と病院えらび

妊娠・分娩はほとんどの女性が経験し、また正常に経過することが多い 面からか母児とも元気で当たり前との風潮があるように思います。 それゆえお産をする病院を選ぶ基準として建物のきれいさ、部屋の豪華さ 食事の豪華さ、分娩のスタイル、お土産などアメニティだけの重視に偏って いませんか?
アメニティも大切で充分に越したことはありませんが、優先されすぎて あまりにも多くの費用・時間・人員が病院で費やされては肝心の母児の安全 が軽視されかねません。当院ではまず安全で確実な医療を維持することが 最優先と考え医療機器の整備、医療技術の向上に努めております。 そして常に急変に対処できる人員を確保して妊婦さんへのサービスとしています。




お産とマスコミ

つねに正しい判断力を養ってください。
ある新しい意見や治療法を取り上げ、 これしかないかのごとく記載しているマスコミ報道が多く見られます。一時期の うつ伏せ保育の薦めは新生児突然死をきたすことがあるとの知識がまだない ときでした。母児同室推進における新生児の急変時の対処法の問題や感染予防 のための面会制限の必要性などの欠点も考えなければなりません。 自然分娩あるいは自宅分娩における体験談を主に開放感やその良さだけを 強調していると思われる記載が多く私(中山)からみれば 胎児管理の難しさなどまれにみられる異常への対処はどうなるのかなと心配です。 本当の価値や欠点がわかるのには時間がかかります。 それまではファッションに過ぎないものも多く含まれていると思います。


男女うみわけ法

科学的にはいろいろな方法が考えられ報告されていますが、 臨床応用には男女比率の崩れ等、社会に重大な影響が出るおそれがあります。そのため日本では早期の性別診断を 含め、その多くを学会が規制しているのが現状です。




性病の診断と治療を受ける留意点

性行為により感染する病気を性病(性行為感染症)といいクラミジア、淋病、梅毒、トリコモナス、 コンジローマなどが代表的です。 性交により容易に再感染しますのでパートナーも検査、治療をうけないと いつまでも治らないことになります。
ここでパートナーの検査・治療を勧める際によく問題となる点をあげます。
(1)誰から感染したか。
(2)いつ感染したか。
この2つをはっきり診断してほしいのが患者さんの立場だと思うのですが 現実には確定できません。
ですから性交のあった相手の人すべてが感染源の可能性があり また感染させた可能性があると考えたほうがよいです。
性病特有の症状がある人は納得して検査をしてもらえる事から治療成績も 上がり問題となることは少ないのですが 症状のない人にも感染がありうることがこの病気を蔓延させている 原因なのです。
また感染源となった人が既に他の病気たとえば風邪などの際に使った 抗生物質で偶然なおってしまっていることも多いといわれます。 すなわち夫婦の検査で結果が違っても決して浮気で感染したということでは ありません。くれぐれも勘違いしないように。 そして感染させた可能性のあるひと全てに検査を勧めないと この病気を減らすことはできません。




低用量ピル

平成11年9月より日本でもピルが発売されております
以前日本でピルとして利用されていたのは
中用量ピルでドオルトンやプラノバールという商品でしたが
低用量ピルは避妊に必要なホルモン量をそれより少なくして
副作用を出来るだけ軽減させようとするものです。
多くの商品がでていますが原理的には全ておなじで
28日を1周期として繰り返し服用しますが

21日間服用して7日間服用を休むタイプと
28日間ずっと服用して休まないタイプがあります。
どちらも2日以上服用を忘れると避妊効果が失われますので注意が必要です。
保険適応がありませんので当院では1ヵ月あたり2940円必要です。

副作用のおそれのある次のかたは服用に適しません。

(1) 本剤の成分に対し過敏性素因のある女性
(2) エストロゲン依存性腫瘍(例えば乳癌、子宮頸癌、子宮筋腫)、子宮頸癌及 びその疑いのある患者[腫瘍の悪化あるいは顕在化を促すことがある。]
(3) 診断の確定していない異常性器出血のある患者[性器癌の疑いがある。 出血が性器癌による場合は、癌の悪化あるいは顕性化を促すことがある。]
(4) 血栓性静脈炎,肺塞栓症,脳血管障害,冠動脈疾患またはその既往歴のある患者 [血液凝固能が亢進され、これらの症状が増悪することがある。]
(5) 35歳以上で1日15本以上の喫煙者 [心筋梗塞等の心血管系の障害が発生しやすくなるとの報告がある。]
(6) 血栓性素因のある女性 [血栓症等の心血管系の障害が発生しやすくなるとの報告がある。]
(7) 抗リン脂質抗体症候群の患者 [血栓症等の心血管系の障害が発生しやすくなるとの報告がある。]
(8) 手術前4週以内,術後2週以内,産後4週以内及び長期間安静状態の患者 [血液凝固能が亢進され、心血管系の副作用の危険性が高くなることがある。]
(9) 重篤な肝障害のある患者 [代謝能が低下しており肝臓への負担が増加するため、症状が増悪することがある。]
(10) 肝腫瘍のある患者[症状が増悪することがある。]
(11) 脂質代謝異常のある患者 [血栓症等の心血管系の障害が発生しやすくなるとの報告がある。
また、脂質代謝に影響を及ぼす可能性があるため、症状が増悪することがある。]
(12) 高血圧のある患者(軽度の高血圧の患者を除く)[血栓症等の心血管系の 障害が発生しやすくなるとの報告がある。また、症状が増悪することがある。]
(13) 耳硬化症の患者[症状が悪化することがある。]
(14) 妊娠中に黄疸、持続性そう痒症又は妊娠ヘルペスの既往歴のある患者 [症状が再発するおそれがある。]
(15) 妊娠又は妊娠している可能性のある女性
(16) 授乳婦
(17) 思春期前の女性[骨端の早期閉鎖をきたすおそれがある。]




緊急避妊法とは

排卵日ごろに避妊をせずに性交をしてしまったときに 行う方法です。
@ヤッペ法
方法
避妊をしない性交のあと72時間以内に中用量のピル(ethinylestradiol0.05mg,norgestrel0.5mg含有)を2錠服用 ついで1回目の服用後12時間以内にさらに2錠追加服用する。
効果
妊娠率を服用しないときの1/4に減らすことができます。 すなわち排卵日のころに避妊をせずに性交すると100人の 女性のうち8人ぐらいが妊娠するといわれていますが、この 緊急避妊法を用いれば妊娠する女性は100人に2人(1/4) となります。ピルは多くの産婦人科に在庫されています。嘔吐や吐き気などの副作用が比較的多いのが欠点です。


A緊急避妊薬(ノルレボ)
避妊をしない性交のあと72時間以内にノルレボ(levonorgesteroll0.75mg含有)を2錠服用 する。ヤッペ法とは異なり一回服用です
効果
一回服用でよいこと。吐き気などの副作用が少ないことなどが利点ですが、高価なことが欠点といえます。




生理をおこす薬

一般に生理を起こす薬と言われているのは 中用量のピルです。 消退出血といってこのピルを一定期間服用すれば 服用終了後に出血(生理)が起こります。 生理を起こす薬といっていますが薬を服用中には生理は おこりませんのでご理解ください。 服用終了後2週間たっても生理がこないときは 妊娠しているかまたは他の異常が考えられますので 婦人科を受診してください。


子宮頸がんとヒトパピローマウイルス

子宮頸がんは発がん性ヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染が原因となって発症することがわかっています。
現在日本では子宮頸がん患者の約60%にHPV16型、18型の感染が見られますが、このウイルスの感染を防ぐワクチンが発売されました。6ヵ月の間に3回のワクチン投与(筋肉注射)が必要ですが保険適応がありません。
当院では一回当たり16,000円が必要です。しかし約20年ぐらいは有効といわれておりますので子宮頸がんになって命を脅かされることを考えると安いと思います。是非ワクチンを受けられるようお勧めいたします。

平成22年度に公費負担が認められ高校1年生から中学1年生は無料化されました。



AMH(抗ミューラー管ホルモン)

不妊女性の卵巣予備能の診断に利用されようとしています。
AMHは女性では卵巣の顆粒膜細胞から分泌されますので、その分泌量は女性の前胞状卵胞(これが発育して排卵する)の量に関係しますので前胞状卵胞が減ってくるとAMHは減少してきます。閉経すると検出されなくなります。
卵巣の働き(卵巣予備能)は人により異なりますがこのAMHの測定値から予備能を推定できる可能性があるといわれています。